未だアメリカに根付く黒人差別問題をベースにしたサイコホラー映画「ゲット・アウト」(2017年)

低予算ながらも「アカデミー脚本賞」を受賞。巧妙に含まれた伏線と、視聴者をアッと言わせる衝撃のラストで映画ファンの間では有名な作品になりました。今回はそんなゲット・アウトの解説を含めて感想を書いていきます。ネタバレ含みますので、まだ見てない方はぜひ本編を見てから読んでくださいね。

 

【GET OUTの意味】

本作のタイトルでもある”GET OUT”という言葉はフラッシュを浴びたアンドレ(ローガン)がクリスに向かって何回も叫ぶシーンとして印象的ですよね。この時のアンドレが言いたかったのは、この家の正体を知っているからこそ今回のターゲットであるクリスに「今すぐ出ていけ!逃げろ!」と伝えたかったと同時に、ローガンに「自分の中から出ていけ!」と訴えているようにも思えます。

そして作品全体のテーマを踏まえて、この”GET OUT”とは「黒人差別の社会から解放されたい!自由になりたい!」という意味も重ねているのでしょう。

 

“Get out!!=「逃げろ!」・「黒人差別の世界から抜け出したい!」

 

【全ての元凶・アーミテージ家】

クリスの恋人・ローズの実家であるアーミテージ家。

クリスはローズの両親に挨拶するためにここへ訪れ散々な目にあうわけですが、結局この一家とはなんだったのか?

 

ざっくり言うと、黒人の人身売買ビジネスという違法行為を行っている一家。なぜ黒人を売るのか?それは黒人が持つ「身体能力の高さ」が欲しい白人たちに需要があるからです。

 

どのようにして売るのか?まず獲物である黒人を捕まえ、オークション方式で売買を成立。その後、移植手術で黒人の体に白人(落札者)の脳を移せば完了です。手術を行った白人は不老不死と黒人としてのずば抜けた力を手に入れることができるわけですね。そして商品である黒人はただ体を乗っ取られるだけでなく意識を残されます。

 

ですが自分の意思で動くことができないため、ただ外を眺めていることしかできません。どのように見えてるかといえば、クリスが「沈んだ地」にいる時のような景色。これがいっそ殺してくれ感なのはウォルターの器になった人間の最期を見ればわかることでしょう。

ちなみにアーミテージ家の家族構成は以下の通り。

アーミテージ家の家族構成ディーン
ローズの父親。脳神経外科医。ビンゴ大会もとい闇オークションの実行と移植手術担当。鹿を20万頭倒したい。
ミッシー
ローズの母親。心理療法家。催眠術が得意で、相手を操ることができる。最初からどことなくラスボス風な雰囲気を持っている。だがラスボスではない。
ローズ
ヒロインに見せかけたラスボス兼デカい釣り針。黒人の恋人はクリスだけよ…とか言いながら何人もの黒人男性をホイホイ釣ってる妖怪口だけ女。基本は誘惑担当だが、獲物が逃げ出した時に仕留めるスナイパーでもある。
ジェレミー
ローズの弟。釣れた黒人を(力技で)回収する係兼父親の助手。医学生。初対面の印象は最悪だけど意外としっかりしてる子。冒頭の黒人を誘拐してる覆面男はコイツ。
ウォルター
見た目はアーミテージ家の管理人(庭師)、中身は「凝固法」の創始者であるローズの祖父。手術痕を隠すために帽子を被っている。夜中に全力疾走するのが趣味。
ジョージナ
見た目はアーミテージ家の使用人、中身はローズの祖母。手術痕を隠すためにウィッグを被っている。キッチンが好き。

 

【ゲット・アウトの様々な伏線】

さすがアカデミー脚本賞を受賞しただけあって冒頭から様々な伏線があります。話のオチを理解する上で重要な伏線から、黒人差別の歴史を表すものまでいずれも巧妙。わかりやすいものから細かいものまで解説していきますね。

 

■三度の鹿

本作には三回鹿が出てきます。最初はアーミテージ家に向かう途中に飛び出してきてローズの車にぶつかってしまう雌鹿。この鹿はブラックバックと呼ばれる鹿であり、かつブラックバックという言葉は黒人差別用語でもあります。また、クリスの母親は過去に轢き逃げにあっているため、それと重ねたものとも解釈できるわけです。

次はクリスが監禁された部屋に飾ってあった雄鹿の剥製。そしてディーンを殺すためにこの剥製を使います。雄鹿は黒人男性の比喩。鹿の剥製を使って白人(ディーン)を殺すシーンは、「差別から解放されたい!自由になりたい!」という意味なのでしょう。

 

また、ローズとクリスが来る途中で鹿を引いたという話をした時にディーンが鹿を罵倒するようなセリフを吐きます。鹿=黒人という見方であれば遠回しな差別発言と捉えることも。しかしその鹿に殺されるのですから皮肉なもんですね。

 

■綿花と紅茶

アーミテージ家に捕まり監禁されたクリスは催眠術であるスプーンの音を聞かないために、椅子の皮を破って中に詰まった綿を取り出し耳に詰めることで難を逃れます。

黒人と綿といえば、19世紀初頭のプランテーション農業のために労働を強いられた黒人奴隷の綿花摘みが連想されます。

 

また、ミッシーが催眠術に使う際カップに入っている「紅茶」も同様の奴隷労働で得た作物のひとつ。

 

こうした何気ないものの中にも黒人差別の歴史を表しているのです。そして催眠術の道具として使用される銀のスプーン。銀のスプーンには「上流階級の生まれ、上流階級の相続財産(be born with a silver spoon in one’s mouth)」という意味もあり、黒人への催眠術に使うことで白人の優位性や黒人奴隷が白人の財産になることを示しています。

ついでにテラスで飲んでいたアイスティーにもちょっとした意味が。これはたくさんの砂糖が入ったスイートティーと呼ばれるもので、アメリカ南部ではポピュラーな飲み物だそうです。しかし歴史をさかのぼればスイートティーも当時は「貴重な紅茶に貴重な砂糖を入れて飲む」という上流階級のみに許された飲み物であったため、このシーンでもさりげな~く黒人奴隷の時代があったことを匂わせているのでした。こういう一見なんでもないような些細な場面から歴史を連想させるのが本作のスゴいところ。

 

■クリスの免許証

鹿を轢いてしまい警察に免許証を求められるシーンですが、ローズは「彼は運転してない」とクリスの免許証を絶対に見せようとしません。まだ黒人が不当に逮捕される時代ですから、ここでクリスが免許証を見せていたら黒人が鹿を殺したことにして連れていかれる可能性があります。

 

それを踏まえて警察を説き伏せたローズは私の男を守っただけ、とクリスに微笑みかけますがまあそんなわけないんですよ。本当の理由は自分がここでクリスと一緒にいたという証拠を残さないため。

 

アンドレは誘拐されたあと行方不明の扱いになっているので、クリスも移植手術が終わったら行方不明扱いになるのでしょう。そうなるとクリスの痕跡を残しては自分に疑いがかかってしまうので、それを避けるためにもかたくなにクリスの免許証を見せなかったわけです。ちなみにローズはできるだけ警察に関わりたくないはずなので、クリスは母親のこともあるので警察を呼んだのはクリスだと思われます。

 

■カメラのフラッシュ

アンドレやウォルターの器になった黒人が意識を浮上させることができるようになったカメラのフラッシュはまさに本作のキー。しかしなぜフラッシュだったのか?実は催眠術を解くためにフラッシュが有効なのは実際に証明されているそうです(正確には2~3回程度のフラッシュでは解けないらしいのでもっと時間がかかるようですが)

 

また、2016年に白人警官が黒人男性を殺害する事件があり、この事件は携帯のカメラで撮影されていました。このことからカメラのフラッシュ=白人警官の暴力に対する抑止力となっているのです。このことも含めて本作では黒人が白人から解放される条件が「カメラのフラッシュ」なのでしょう。

以下、そんなところまで伏線だったなんて…何気ない場面や台詞の細かい伏線をざっくり解説。

こんな伏線もあった!・冒頭で白いクリームを使って顔を剃っているクリス
→これから白人にされるという意味。切ってしまうのは不吉の前兆。
・クリスの部屋に飾られた数ある白黒の写真と、白人の少女が黒いマスクを被っている写真
→白黒はいわずもがな。少女の写真は黒人の器に入る白人の表現。
・両親に恋人が黒人であることを説明していないと言われたクリスが「銃で追い返されるかも」と半分冗談で言うシーン
→ラストでローズに銃で襲われます。
・家を案内するディーンの「地下の黒カビ」発言
→地下に黒人を監禁する(していた)ことを示しています。また、黒カビを英語で”Bleck mold”と言うがこの”mold”には「型を作る」という意味もあるので「黒人の型」とも解釈できるのでしょう。
・ミッシーがクリスにタバコをやめさせたがってたわけ
→器が不健康であってはならないため。
・クリスがアーミテージ家から脱出する時、ローズが食べていたお菓子と飲み物
→白い牛乳と黒いストロー、カラフルなお菓子。それぞれの色は混ざり合わないことを意味しています。
・母親のミッシーという名前
→”Mistress of a slave-holding”(奴隷を抱えている家の女主人)の略称が”Missy”
・冒頭の誘拐シーンで流れる軽快な音楽
→「Run Rabiir Run」という曲で、農夫に捕まったらパイにされるぞ!銃で撃たれるぞ!逃げろ!ウサギ!走れ!走れ!というような歌詞。まさにこの時のアンドレや後のクリスへの警告。

 

それと本編にはあまり関係ないのですが、本作には「シャイニング」のオマージュが練り込まれています。

一番わかりやすいところはタイトルコールの文字。オマージュ元と比べてみるととてもよく似ていることがわかりますね。続いてシャイニングの舞台になっているホテルの237号室。ロッドとクリスが電話をしている時にアナウンスされている飛行機は237号。なんとも細かい。

 

また、ジョージナのモデルになっているのもシャイニングの双子。本作は見たけどシャイニングをご覧になってない方はこちらも併せて見ることをオススメします。シャイニングは名作ですので!ぜひ!

 

【もうひとつのエンディング】

DVDとブルーレイに収録されている「もうひとつのエンディング」は皆さんご覧になりましたでしょうか?

本来のラストはアーミテージ家から命からがら逃げ出したクリスが、ローズの首を絞めて殺そうとした時にパトカーに乗ったロッドが助けにくるハッピー(?)エンディングです。

しかし劇場未公開であるエンディングでは、パトカーから降りてくるのはロッドではなくただの警察二人組。かつこちらのエンディングではクリスがローズの首を絞め殺した直後。アーミテージ家は燃えて証拠がなくなったため、クリスはそのまま逮捕されてしまいます。半年後、面会にきたロッドがクリスを釈放するためにアーミテージ家で起こったことを聞き出そうとしますが、催眠術の後遺症でうまく説明できないクリスは「覚えてない」と言い、ロッドの助けを断りまた獄中の生活に戻るのでした…。

監督の解説によると、こちらのエンディングは「水面下の人種差別」を描いたラストであり、それは未だに現実の一つとして存在しうることへのメッセージ性が込められたものです。司法制度の上で有利な白人と、不当に投獄される黒人。二人の会話シーンをよ~く見ると、奥で面会をしている囚人たちもまた黒人であることがわかります。

 

正直、何の罪もないクリスが囚人になってしまうのは納得いかない!的な感情になるのですが、どうにもならないこれこそが現実なのだと思うとやりきれないですよね…。これらの問題定義として本来のエンディングはこちらになる予定でしたが、ラストシーンの撮影時に反人種差別運動の芽が実を結び始めていたため、ロッドが助けにくるエンディングに差し替えたそうです。

ちなみに、本編のラストシーンでクリスを助けにきたロッドの車に乗り込み二人が沈黙したあと、ロッドがクリスに声を掛けるシーンの未公開映像が数パターンあります。素振りは一緒でセリフだけ違うものなのですが、連続して見るとなんとも嘘字幕っぽくておもしろいのでご覧になってない方はぜひこちらも見てくださいね。

 

【感想】

解説に大体書きたいことは書いてしまったのですが、とにかく細かい!細かすぎるぞゲット・アウト!

 

社会風刺ホラー自体は珍しくはありませんが、その中でもここまで「黒人差別」というひとつのテーマを貫き、隅から隅まで伏線をはびこらせている作品はなかなかありません。何気ないものひとつひとつに意味がある。これがスゴい。だから無駄なシーンが一切ない。

 

ストーリーのテンポも良く飽きさせない展開に、徐々に徐々に不安を煽る怖さ。途中からあれ…?もしかしたら…?と視聴者に怪しさを感じさせるも、「奴らは性奴隷にする気だ!」とお調子者のロッドが言うことによって奴隷という言葉すら間違いのように聞こえさせるのも上手いなあと思います。

 

特に何回も言うことで真実からより遠ざける。ニアミスだったんですけどね…でもこの説を信じてやまないロッドがクリスを助けるのです。このギャップというか、ちょっと頼りない面を見せておいて肝心な部分でキメる。それがTSA野郎・ロッド。見終わったあとに惚れてしまう。すき。

ギャップでいえばローズも負けてないなあと思います。クリスを騙していたことをバラしてからの変わり様のスゴさったらない。髪を下している時は愛嬌のある良い彼女ですが、ひとつにまとめてポニーテールにしたローズはいかにもハンター。クリスを捕まえてからロッドの電話に受け答えする姿も話し方と顔の差からプロの風格が漂ってます。

 

そんな彼女、未公開映像で「高校生の時に上がり症を直すため母親から催眠術を受けている」と語るシーンがあります。イレギュラーにも冷静に対応できるのはこれのおかげなのかも?

一方で弟のジェレミーはやたらとクリスを挑発したり怪我をさせそうになって家族に叱られる場面がチラチラ。監督いわく、彼は絶賛反抗期で本当はこの家族のしてることがおかしいことをわかっているそう。ローズは家系に誇りを持ってそうですが、ジェレミーはきっとそういうものは持ち合わせていないのでしょうね。やんちゃがすぎるだけでこの異常な家族の中で唯一まともな人間なのかもしれません。

あと個人的に本作で一番ゾッとしたところはジョージナが泣きながら笑って「no…no,no,no,no,no,no…」と必要以上に否定する場面。予告を初めて見た時はこの顔に全部持っていかれたもんです。同じ思いをした人はきっと多いのではないでしょうか?

話の内容は普通なのに、なんとな~く感じていた「違和感」を一発で確かな「不安感」に差し替えるほどのインパクト。もうね、ここだけで監督も役者も天才だと思いますよ。ホラーってインパクト勝負なところありますから。印象に残したもん勝ちです。

 

【まとめ】

アーミテージ家は絵に描いたような裕福で理想的な家族。そんなエリート家族ですら「他者を犠牲にしてまでより上を目指したい」と思うような、人間の尽きることのない底なしの欲望こそが究極のホラー。

 

私たち日本人からしてみれば黒人差別の問題はあまり馴染みのないかもしれませんが、このような作品をきっかけに様々な人たちが過去や現代の人種差別問題を知り、解決への糸口を探し、よりよい未来への道を拓けていける世の中になればよいですね。そういう意味でも本作はホラーファン以外の方にも見てほしい映画です。

それではここまでお読み頂きありがとうございました!